鮮やかな色のカバーにひかれて手に取り、ぱらぱらとめくっていたときに次の一節が目に飛び込んできた。
岩田はヘッドホンから聞こえる歌を口ずさみながら廊下を歩いていた。美術室、男子トイレを過ぎて端の角を曲がれば階段。
「嘘だろ 誰か思い出すなんてさー」
というサビのいちばんいいところで角を曲がり、そこで階段をのぼってきた男とばったり出会った。しまった! 反射的に、とにかく口をつぐんだ。
(あるね、そういうの、と手を動かしたまま健太郎がいい、なにその歌、と頼子がいい、知ってるそれ、と綾がにやりとした)